ゲーム『ナツノカナタ beyond』の感想記事です。
記事前半はネタバレなしの紹介、後半はがっつりネタバレという構成です。
ネタバレ部分の前には注意書きを出すのでご安心ください。

このゲームはもともとフリーゲームだったので、メインストーリーを見るだけなら一応オリジナル版(Demo版)でもプレイ可能。
beyond版とはつまり完全版との事で、細かいUIの利便性向上やキャラクターエピソードが追加されたものという事らしいです。
Steamストアページの説明欄にそのあたり詳しく書いてくれています。
私は最初からbeyond版を買いました。
が、まず無料版でやってみて、気に入ったらbeyond版でより世界に没入する、みたいなスタイルでもいいのかもしれませんね。
とはいえ、beyond版も結構頻繁にセールやってるみたいなので、それ見越して買っちゃってもいいのかも。
プレイ時間は、メインストーリーを見るだけなら7~8時間くらいでしょうか。
ちなみにSwitchでも遊べるみたいです。
私はSteamサマーセールで900円で買いました。
十分すぎるほどペイ出来る内容です。
◎どんなゲーム?

亡くなった祖母の遺品整理をしていたら古いPCを発見し、そのPCをつけてみたら画面越しに女子高生ナツノと出会った、というストーリー導入。
ナツノがいる世界は主人公のいる世界とは異なるようで、ゾンビ・パンデミック真っ只中。

ナツノはもともと東京で暮らしてたけど、家族とも友達とも離れ離れになってしまった。
だからなんとなく北へ向かって旅をしている、という感じです。
主人公はナツノに行動を指示したりしながら交流を深めていく、みたいなゲームです。
終末世界、ポスト・アポカリプスものですね。
ゲームのジャンルとしてはノベルゲームとかADVです。
基本的にはテキストを読み進めていくゲーム形式ですが、探索パートというものがあるのが特徴です。

探索パートといっても特に謎解き要素などがあるわけでなく、基本はナツノが勝手に探索してくれます。
こちら側は体力と空腹のステータスだけ管理して、ゾンビとの戦いで傷ついたら包帯使ってあげたり、空腹状態になったらご飯食べさせてあげるくらいですね。

あとはクラフト要素なんかも一応あります。
といっても探索で拾ったアイテムを組み合わせてアイテムを作ると探索が楽になる、みたいなシンプルなものです。
ゲーム部分はこれといって詰まる事なく進められました。
ちなみに探索パート抜きでストーリーのみに集中出来るモードもあります。
そういった意味で、細かい気配りが多いゲーム。
ゾンビと戦う描写などはありますが、テキストのみでの表現になります。
だからグロいグラフィックが出てくるとか、そういう心配はしなくていいです。
グラフィックは可愛い女の子達と夏っぽい風景中心ですね。
この探索パートのおかげで、メインストーリークリア後もやり込み要素があります。
まだキャラクターストーリーも解放していないものが多いし。
出会えてないキャラもまだまだいる。
たっぷり味わい尽くせるゲームですね。
◎感想(ネタバレなし)
ネタバレしない範囲での感想ですが、「ゲームとして味わう哲学」だなと思いました。
哲学というと小難しいイメージがあるかもしれませんが、あくまでも女子高生のナツノ目線なのでそんな小難しいものではないです。
「自分が生きる意味とは?この世界の意味とは?」
こういう思春期にありがちな問いをこれでもかと掘り下げてくる内容です。
生きていてこんな疑問を抱いた事がある人には間違いなくぶっ刺さる内容だと思います。
上記に当てはまらない人にとっては逆に苦痛なシナリオかも。
ネタバレなしだとこのくらいしか言えませんね。
まだ遊んだ事ない方はぜひ一度遊んでから、ネタバレあり感想欄で再びお会いしましょう。
あと曲が最高です。夏らしい爽やかさがありつつ、どこか儚さを感じる。
まさにこのゲームにピッタリの楽曲だらけです。
◎ネタバレ注意
ここから先はネタバレになります。ご注意ください。
メインストーリーを完走してから読むのを強く推奨します。
ネタバレ感想(クリック/タップで展開)
◎感想(ネタバレあり)
まず一つ声を大にして言いたい。
クリア後に色々感想を読み漁ったのですが…。
13章以降の流れ。
つまり「ナツノ達のいる世界が祖母が気まぐれで作った仮想現実だと判明後…。そこからの自己の存在理由を問い続ける」部分は、わりかし賛否両論みたいですね。
冗長、あまり面白くはない、長い…などの意見もそこそこ見かけました。

でも私は、あの部分こそがこの物語の核なのではないかと思いました。
自己の存在理由、この世界の意味、そんなものに答えなんてものはない。
全てはただの偶然の積み重ね。
じゃあそんな無意味な世界でどう生きようか?
そんな強いメッセージが込められてるように感じました。

ラストも、結局パンデミックは収束しないし何も解決していません。
まさに「意味なんてものはない。偶然の連続」
それを最後までとことん体現した作品だなと思います。
この一見何も解決していないストーリーに不満を感じる人は、まさに「何かに意味を求めたがっている」人なのかなと思いました。
感性ではなく、理性の解決を望んでいる人。
確かに一見何も変わってないように見える。
でもナツノの心情は最初と最後で明らかに変わっています。

それにしてもラストのタイトル回収が完璧すぎて。
美しい、美しいよ。
◎ナツノについて
ナツノはパンデミック前、転校を繰り返しながらも器用に生きてきたタイプです。
特に大きな悩みも挫折もなく生きてきた。
その生活がパンデミックで崩壊しました。
とはいえ、その後も何となく北を目指して旅してみたり、ショットガンなどの武器を巧みに使いこなして生き残ってきたわけです。
過酷な状況でありつつも、なんだかんだ上手くやれていた。
それが主人公との偶然の出会い、この世界が仮想現実だという事実を突きつけられ、親しくしていたアカネさんは変容が進んでいく。
そしてこの状況が全て偶然の積み重ねでしかないという事実を突きつけられる。
しかもちょっとクリックするだけでこの世界を終わらせられるコンピュータまで手にしてしまった。
「こんな世界、終わらせてしまいたい」
人生で初めて、これでもかというほど自己の存在意義が揺らぐわけです。

それまでの人生で、アカネやイツカ、シノ、アルタ、リラのように強い目的を持った事は無かったナツノ。
あの長い存在理由を問い続けるパートで、ようやく彼女なりの答えに辿り着くわけです。

だからこの物語は徹頭徹尾、ナツノという少女の心的成長が描かれているのではないでしょうか。
それ以外の部分はストーリーのスパイスです。核ではない。
だからセカイ規模の大規模ストーリーなんかでは決してなく、一人の少女の成長ストーリーというミニマムな物語なんですよね。
ここまで感想書いてて思います。この感想野暮だなぁ~!
言葉にしちゃうと急に陳腐になっちゃうの何なんでしょうね。
でも言葉にしないと伝わらないんですよね。
◎中盤の叙述トリック
最初は主人公側の世界が平和な世界、ナツノ達のいる世界がパンデミックで異常な世界だと描写されています。
これによって、主人公側の世界が我々の現実世界に近いのかなとミスリードさせられます。

でもイツカの登場で、主人公サイドが「肉親でなくても家族になれる」「死んだ人は月にある仮想世界で暮らす、そこは天国と呼ばれている」
という、かなりSFチックな世界だという事が明かされます。
これには素直に唸らされました。
この前に主人公が月を見上げて「天国」について想起する場面があるんですが、その時はただの比喩っぽく見えるんですよね。
認識のズレを巧みに用いてきたなと思いました。
してやられた。
◎ルート分岐について
このゲームは2回ほどルート分岐があります。
初回のやつは厳密にはルート分岐とは違いますが。

最初のは「主人公が変容の原因かもしれないからお別れしようか」みたいな感じだったと思います。
突然エンディングテーマっぽいのも流れたので「バッドエンド突入か!?」と焦りました。
その後「一度コンピュータから離れよう」みたいな事言われて何も進めなくなったので、一旦ゲームを再起動しました。
そうしたら作中で1年経過していた、という流れ。
そういう仕様ではあるんだけど、ある意味進行不能バグっぽさがありますよね。

2度目の「決断を強いられる」ところは明確なルート分岐ですね。
私は最初普通に削除してしまい、見事にバッドエンド突入しました。
バッドエンド突入後は、また同じ選択肢のところで「やめる」を選んだり、なんか色々やってたら話が進んだ気がします。
このへんのロジックはよく分かってないです。
何か適当に色々やったら話が進んだ、みたいな感覚でやってました。
◎ラストの演出
ラストシーンからのEDテーマが流れたと思ったら、その後で探索パートが入ります。
その異常な日常に帰っていく演出が上手すぎるというか。
探索場所も初めて一緒に探索したアパートなんですよね。
ニクいねぇ、この良すぎる演出が。

こんな事言われたら、ちょくちょく起動したくなっちゃうじゃないですかー!
◎他キャラについて
ナツノ以外のキャラについても軽く触れてみます。
といってもキャラエピソードを全てクリアしたわけではないので、今クリアしてる範囲内です。
◎アカネ

軽いノリの素敵なお姉さんといった印象です。
でも自身の足が変容しても、それすら研究対象にしてしまおうとする熱心さ。
とにかくこのパンデミックの意味を解き明かしたいという研究者としての情熱的な一面もあります。
だからこそナツノもアカネさんに惹かれるんだろうな。
キャラエピソードは未クリアなので、まだまだ知らない一面があるかもしれません。
◎イツカ

祖母の声を聞く事で世界の真実に自力で辿り着いた少女…のような見た目の女性。
アカネさんより年上なのはビビりました。
イツカもキャラエピソードは未クリア。
祖母に会うという目的が絶たれた今、彼女は何を支えにして生きていくんでしょうか。
そのへんは語られるんでしょうか。
ちょうどキャラストーリー解放したばかりなので楽しみです。
◎シノ

長野の小さな町出身の女の子。
パンデミックが起きて故郷に帰れなくなって、たまたま見つけた写真の場所を探す旅をしていた。
そこでたまたまナツノと出会います。
最終的に故郷に帰る決断をしました。
帰るというか、きちんとお別れを告げるため。
私は生まれてからずっと地元で暮らしています。
こういう故郷を懐かしむ感覚ってどんな感じなんだろうなぁといつも思います。
だからナツノ寄りの気持ちで見てましたね。
実績欄を見る感じキャラエピソード2もあるっぽいので気になります。
◎アルタ・リラ

イタズラ好きの双子です。
アルタもリラもお互いの事を思いやっていて「相思相愛じゃん」という感じでした。
一緒にいるのが当たり前な関係ってどんな感じなんだろう。
私もナツノと同じ一人っ子なので、やっぱりナツノ側の視点で見ていました。
この2人もキャラエピソード2があるみたいなので、どんな感じなのか楽しみです。
◎ミナモ

ミナモもメインストーリーで少し交流しただけで、キャラエピソードは未開放。
この子もなかなか色々抱えてそうなキャラですね。
ナツノとどう交流していくのか気になります。
◎メグル

おもしれー女っぽさがある、絵を描く女の子です。
見た目からも個性バリバリ出てて魅力的。
この子もキャラエピソード未開放なので、どんな感じになるのか楽しみです。
◎その他
ヒナセとキコにはまだ出会えていません。
どんな感じの子なのか、これまた楽しみ要素ですね。
◎最後に
というわけで一度クリアしたのですが、まだまだたくさんやる事がある!
派手な展開などがあるわけではないですが、しんみりと沁み入る良作だと思いました。
「夏っぽいゲームやりてぇ~」と軽い気持ちで始めたのですが、想像以上にぶっ刺さっちゃいました。
私がこのゲームと出会ったのもただの偶然に過ぎないのでしょう。
でも何か運命的なものがあるのではないか?とつい考えたくなってしまいます。
そんな溢れるパッションのままに書き散らした感想記事、ここまで読んでいただきありがとうございました。